• Column
  • スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値

BIMで変わる建設プロセス(資材調達と施工管理編)【第4回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年9月5日

第3回からBIMデータを使うことで、建築分野における業務プロセスがどのように変革できるのかについて説明しています。前回は、企画・設計プロセスの変革を説明しました。今回は、資材調達および施工管理における変革について説明します。

 建物は非常に多くの建設資材(建材)を組み合わせて作られています。その建設工程は、前回説明したように、躯体から外装(窓廻り)、配管、内装の順に進むのが標準的です。一方で建設業界は重層構造になっています。施主から設計事務所、全体をマネジメントするゼネコン、施工担当のサブコン、実際の施工業務を担当する専門工事の事業者や下請け会社、そして技能工です。

 この構造の中で、設計図面は上流から下流に行くに従って、より詳細になっていきます。つまり、必要な建材の量や仕様が明確になるのは下流工程に入ってからです。結果、必要な建材は、ゼネコンが支給するケースもあるものの、一般には下流工程に従事する施工業者や技能工が手配することになります。

 しかし、下流工程になるほど建材の手配も複雑になります。例えば内装工事だけを見ても下地を作ってから仕上げに移るように、すべての工事が相互に関係して積み重なっているからです。

 加えて、工事の進行を遅らせないように、指定された仕様の建材を指定数量分だけ指定時間帯に現場に納めなければなりません。建材手配のやり取りは依然として電話やFAXが大半で、手作業や口頭での確認が多く、想像以上に大変な作業になります。工事開始の前日に仕様や数量が変更になることもあります。

建材メーカーの営業活動が変わる

 こうした建材の手配にBIM(Building Information Modeling)データを使えば、大幅な業務改善が図れます。

 上述したように建材の手配は、施工が進み、平面の設計図に描かれていたものが立体化され実物になって初めて本当に必要な建材の仕様や寸法が分かるため、施工の一定期間前にならないと実施されないことが少なくありません。

 このことは建材メーカーから見れば、自社製品の採用見込みを立てづらいということです。そのため、自社製品が採用される可能性を少しでも高めるために、建材メーカーは「設計スペック活動」という営業活動を展開しています。設計事務所に対し、自社製品を設計図面に採用してもらえるよう働き掛けるのです。

 スペック活動のメリットは、営業のタイミングと内容が設計担当者の考えやニーズにマッチすれば効果的であることです。デメリットとしては、(1)設計担当者に敬遠されることが多い、(2)約束通り発注されるまで採用は確定しない、があります。

 設計担当者が敬遠する背景には、設計担当者が行政への申請書類の準備などに追われ、設計作業に十分な時間を確保できないことがあります。採用が確定しないのは、多くの設計図面には建材の寸法情報はあっても金額情報(実売価格)は記載されておらず、建設プロジェクトの進ちょくと経費実績次第では実際に手配される建材が変わってしまうためです。

 ここにBIMを導入すれば、設計担当者はBIMコンテンツプラットフォームを使って、自らが望むタイミングや内容でBIMオブジェクトを検索・取得できるため、メーカーによる設計スペック活動を減らせます。BIMオブジェクトには金額情報を連携できるため、建設プロジェクト全体の予算管理が容易になります。

 一方、建材メーカーにとっては、プロジェクトの計画・設計の段階で自社製品が採用され、最終発注に至るまでの確度を高められます。そのためには、自社製品のBIMオブジェクトをBIMコンテンツプラットホーム上で流通させ、設計担当者らの目に付き、設計図面に落とし込んでもらうための活動が不可欠になります。そのためのBIMオブジェクトや関連情報の充実を図ることが、新たなスペック活動になります。営業活動の自動化にもつながり、営業外の活動に人材を配置できることにもなります。

 加えて、BIMコンテンツプラットフォームでは、掲載した自社製品のBIMオブジェクトが、どの国や地域で検索・ダウンロードされているかといったデータが入手できます。世界展開を目指す建材メーカーであれば、こうしたデータに基づき、海外での営業戦略を練ることも可能になります。

 BIMを使って設計段階で建材を確定できれば、建材の手配もEC(電子商取引)サイトで済ませられるようになります。BIMモデルから特定の工期に必要な建材の種類や数量をデータとして算出できれば、AI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)といった技術を使った受発注手順の簡易化あるいは自動化が図れます。